夢の中。

元気ですかと彼が聞いていても僕には答えなんてとても出せなかった。
辛いことも苦しいことも目覚まし時計のように僕の内臓に直接的に攻撃をしてくる。
悲しいのはそれの後がどうあがいても名声のないこの僕だと言うこと。
彼は言いました。
「そう、僕たちには何処までも正しさなんてありふれている。だからこそ今必要なのは痛覚さ。降り注ぐ総てがそうあると認知するための指先だ」
僕はその言葉をじっくりと考えた後、何故だからとてもとても嬉しくなり、彼の方を見ました。
しかし彼は僕のそんな思いとは裏腹に、相も変わらずその定まらない視点をそのままに、総て憂鬱でなにもかもが僕ら以外の総ての物により選択され決定づけられていると言う事実に両手が届かないかのように指先を重ね、虫のようにはわしているばかりです。
僕は絶えきれず彼に懇願するように言いました。
「つまりは、君と僕は今このように密室において平等なように、例えば僕が君のことを憎んでいようとも君が僕のことを愛せると言う自由があるように、今君は素晴らしく何に附属しない存在ってことではないのかい?」
彼は一瞬僕の方を悲しそうに一瞥した後、すぐに目を閉じ。
「そうかもしれない、うん、君はきっと正しいことを言っているのだろう。僕は君のそういうところがとても好きだけど、だけど君はやはりまだ希望が両手にあるんだ。だからこそそんな飽くまで屈強なたたずまいさ。僕は君のそれがとても嬉しいけど、やはり辛いな」
その言葉を聞くや否や僕は居ても立っても居られなくなり、僕のもう存在しない左足をなでながら、最後に一つだけ言ったのです。
「ならば、君が僕の思っている屈強な希望がなんであるか、思慮を巡らせたのかい? 巡らせていないのなら君はとんだ白痴だよ。それさえ考えれば僕が毎日この部屋で君の髪をとかし、ワンピースを着せ、化粧を必死でしていることだって統べてそうだと言えるし、何もかも、勿論この状況でさえ、変わってしまえるのにさ」
彼はその瞬間大声を上げて泣いてしまいました。
しかしながら、ためらうこともなく僕がそれを言えたのは、僕にとってかれはそういったたぐいでとても弱い人間である前に、何処までも白い泉のような物だったからです。